アスベストを含む建物の解体・改修工事に伴うアスベストの飛散防止を強化するために、80平米(約24坪)以上の解体工事にはアスベストの事前調査を行って、調査結果の事前報告が義務付けられました。この記事ではアスベストを含む建物の解体に関する法令と、アスベストによる健康被害の種類について解説します。
アスベストを含んでいる建物解体に関する法令
アスベストを含む建物の解体には、厳しい法令が適用されます。解体の際には建物の調査が必要で、専門家によるアスベストの有無とその種類を確認する必要があります。防護措置を講じた上で、認可を受けた業者が解体作業を依頼するのがいいでしょう。作業中は飛散防止対策を徹底して、廃棄物も適切に処理しなければいけません。正しい手順を守らないと健康被害や法的リスクが生じるため、建物の解体を検討中の方は、必ず信頼できる業者に依頼して、法令を遵守することが重要です。
大気汚染防止法
大気汚染は、世界的にも大きな問題になっており、日本では大気汚染防止法が1968年に制定されたのがはじまりです。大気汚染防止法はアスベストだけではなく、自動車排出ガスや水銀、ばい煙、揮発性有機化合物なども、排出規制が定められています。アスベストの場合だと、工事や事業場の敷地などにおける大気中の濃度や、吹付けや石綿などが使われている建築物を解体・改修する際の作業の基準が定められていて、非常に厳しい基準になっているのが特徴です。2021年4月からは、大気汚染防止法が改正されました。
建築物の解体等の工事で石綿の飛散を防止するために、すべての石綿含有建材へ規制を拡大して、都道府県等への事前調査結果の報告が義務付けられています。また、作業基準の遵守徹底を目的とした、直接罰の創設や対策を一層強化しました。
労働安全衛生法
労働安全衛生法は1972年に制定されていて、職場において、労働者の安全・健康の確保や、快適な職場環境を形成促進するために定められました。労働災害を防止するだけではなく、責任体制を明確にすることで、自主的活動を促進する目的もあります。アスベストは健康に影響を及ぼす物質なので、アスベストから労働者を守るために労働安全衛生法があります。違反した場合は「懲役」や「罰金」の罰則が科せられることがあるので、法令を遵守することが大切です。
建築基準法
住居は住んでいる人の生命や健康はもちろん、財産を守るための重要な空間です。そんな重要な役割を持っている建物や土地を守るために「建築基準法」が定められました。
建築基準法は、都市計画法や消防法などの法律と関連しながらルールを明確にしており、この法律も時代の変化と共に改正を繰り返しています。アスベストに関しては、吹付けアスベストとアスベスト含有吹付けロックウールが規制の対象になっています。
新しく建築する建物では使用することが禁止されており、増改築などのリフォームの際にはアスベストの除去などを実施しなければいけないので注意が必要です。
建築基準法は令和4年に改正されており、改正のポイントとしては「建築確認・検査の対象になる建築物の規模などの見直し」「階高の高い木造建築物などの増加を踏まえた構造安全性の検証法の合理化」「中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化」「部分的な木造化を促進する防火規定の合理化」などです。
建築工事に係る資材の再資源化に関する法律
建設工事で出てしまう廃棄物のリサイクルを促進する目的で定められている法律で、特定建設資材を使用した建物の解体工事や新築工事では、一定以上の工事において義務を講じています。
この法律自体はアスベストの除去や排出を規制しているわけではなく、アスベストが付着した建築資源の場合に再利用が困難になるので、事前調査や届出によってアスベストが使用されているかどうかの情報を記載・報告するように定めています。
アスベストによる健康被害の種類
アスベストは、深刻な健康被害を引き起こすことで知られています。主な健康被害には、アスベスト肺・肺がん・悪性中皮腫・びまん性胸膜肥厚・良性石綿胸水があります。
これらの病気は早期発見が難しく、進行すると治療が困難です。アスベストによる健康被害を出さないためにも、適切な防護具の使用や、専門業者による安全な処理が不可欠です。
アスベスト肺
アスベストを10年以上吸い込み続けることで起きる「アスベスト肺」は、肺が繊維化して、肺線維症を発症するリスクがあります。アスベストが肺の中に15〜20年潜伏すると発症してしまう、進行性の病気です。
アスベスト肺が発症すると咳や息切れ、胸の痛みなどの症状が出ます。指の爪が太鼓のバチのようになる「バチ爪」や、体重減少などで病気が発覚することがあり、背中に聴診器をあてるとバリバリという音が聞こえるのもアスベスト肺である特徴です。
肺がん
肺がんはすべての原因がアスベストではありませんが「原発性肺がん」や「石綿繊維」や「胸膜プラーク所見」がある肺がんは「石綿による肺がん」だと診断されます。肺がんは肺の細胞が異常増殖し、腫瘍を形成する病気です。
初期段階では自覚症状が少ないため、定期的な検査が重要です。主な症状として、持続的な咳、血痰、呼吸困難、胸痛、体重減少があります。
喫煙は最大のリスク要因であり、他にも受動喫煙・大気汚染・アスベストが関与します。早期発見・治療が治癒率を高めるため、疑わしい症状があれば、早急に医師に相談することが重要です。禁煙や受動喫煙を避けることで、リスクを大幅に減少させることが可能です。
悪性中皮腫
アスベストを吸い続けることで腹膜や胸膜に発生して、30〜50年後に発病することがある病気です。悪性中皮腫の場合だと、肺がんと違って必ずしもアスベスト肺を発症するわけではありません。
初期はほとんど無症状なので発見が遅れることが多く、進行すると咳や息切れなどの症状が現れます。治療方法は肺がんと同じで、手術か抗がん剤治療、放射線治療がメインとなります。
びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚は、アスベストによって胸膜炎を発症した場合、肺を覆う膜が癒着して広範囲に硬くなって肺が膨らみにくくなり、呼吸困難や繰り返し起こる胸痛、呼吸器感染を引き起こす病気です。
比較的高濃度のアスベストを吸い続けることで30〜40年後に発症すると言われています。
良性石綿胸水
良性石綿胸水は、アスベストを吸い続けることによって、胸膜炎による胸水が胸膜腔内に溜まってしまうものです。症状としては、咳や呼吸困難などが多くみられ、半年以上自覚症状がない方が多いと言われています。
良性石綿胸水も比較的高濃度のアスベストを吸い続けることで、おおよそ40年くらい経過したところで発病すると考えられています。胸水の消失とともに治療する疾患なため、石綿救済給付の対象の疾病ではありません。
まれに胸水が消失せず、呼吸機能障害が残ってしまうケースがあります。
アスベストによる健康被害を受けた際の給付制度
アスベストは吸い込んでいると肺を繊維化したり、肺の病気を引き起こす可能性があります。一部は痰に混じって排出されることがあるので、すべてのアスベストが体内に入るわけではありませんが、肺に滞留しやすい物質なので、体に害を及ぼす危険性は高いです。
労働者災害補償保険制度
労働者災害補償保険制度とは、仕事が原因で生じた病気・障害・負傷・死亡などが、業務災害として労働基準監督署長から認定を受けることで、労災保険の給付が受けられる制度です。
アスベストに関する健康被害も、労働者が業務をする際にアスベストを吸入してしまい、それが原因で病気などにかかった場合に労働基準監督署長から認定を受ければ、労災保険の給付が受けることが可能です。
まとめ
アスベストを含んでいる建物解体に関する法令についてと、アスベストによる健康被害の種類について解説しました。アスベストを含む建物の解体には厳しい法令が適用されており、解体の際には建物の調査が必要なので、専門家によるアスベストの有無とその種類を確認しましょう。アスベストは深刻な健康被害を引き起こす一方で、病気は早期発見が難しいです。進行すると治療が困難になるので、アスベストによる健康被害を出さないためにも、適切な防護具の使用や専門業者による安全な処理が必要になります。